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仙台高等裁判所 昭和62年(ラ)52号 決定

抗告人

太平住宅株式会社

上記代表者代表取締役

竹村平也

上記代理人支配人

森本清

同弁護士

村上敏郎

主文

原決定を取り消す。

理由

一本件執行抗告申立理由の要旨は「原決定は、不動産の最低売却価額で手続費用及び差押債権に優先する債権を弁済して剰余を生ずる見込みがないこと及び抗告人が民事執行法六三条二項所定の手続をしないことを理由として、別紙物件目録記載の不動産(本件不動産という。)に対する強制競売の手続を取り消したが、抗告人は、競売目的不動産である本件不動産中の(2)ないし(4)の土地・建物について、差押債権を被担保債権とする順位一番の抵当権を有しているので、この被担保債権は差押債権に優先する債権と目すべきではなく、したがつて不動産の最低売却価額で、手続費用及び差押債権に優先する債権(本件(1)土地が負担する申立外滝豊の極度額二〇〇万円の根抵当債権)を弁済して剰余を生ずる見込みがあるものであり、原決定は取消を免れない。」というのである。

二そこで検討するのに、本件競売事件記録によれば、次の事実が認められる。

すなわち、本件競売手続は、申立外株式会社住宅総合センターより債務者政野政雄に対する昭和五三年九月一四日貸付の八三〇万円の金員貸借について、抗告人が債務者のために連帯保証をし、将来代位弁済により取得することのあるべき求償債権について抗告人と同債務者との間に「求償債務履行契約公正証書」(秋田地方法務局所属公証人穴澤定志作成、昭和五三年第九八七〇号)が作成され、のちに、抗告人が昭和五七年三月三一日株式会社住宅総合センターに対し、債務者の上記債務合計九六六万七、三七七円を代位弁済したことに基づき、その求償債権である元金八三〇万円及びこれに対する約定遅延損害金債権を差押債権として、上記公正証書に基づき債務者所有の本件不動産に対して差押がなされ、さらに本件不動産が一団の土地とその地上建物であるところから一括競売入札の方法によることとして手続が進められてきたが、本件不動産全体の鑑定評価額が五一一万八、〇〇〇円であり、そのうち(1)の土地には申立外滝豊の債権極度額二〇〇万円の根低当権設定登記がなされ、(2)ないし(4)の土地・建物には株式会社住宅総合センターの上記貸金債権についての順位一番の抵当権設定登記及び抗告人が上記代位弁済をしたことに基づき株式会社住宅総合センターから移転を受けた抵当権について昭和五七年三月三一日付で移転の附記登記がそれぞれ経由されている(その旨の記載のある各登記簿謄本が提出され競売事件記録に編綴されている。)ところ、原審はこれらの抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)の被担保債権をすべて差押債権に優先するものとしてこれを合計し、手続費用を加えて一、二五一万六、二三〇円と計算し、本件不動産の最低売却価額五一一万八、〇〇〇円で、これらを弁済して剰余を生ずる見込みがないものとし、抗告人に対してその旨の通知をするとともに、その後法定の期間内に抗告人から民事執行法六三条二項所定の申出、保証の提供又は証明がなされなかつたことを理由に、本件強制競売手続の取消決定をなしたものである。

三しかしながら、原審が差押債権に優先する債権とした抵当権の被担保債権のうち、抗告人が株式会社住宅総合センターから代位弁済により移転を受けた抵当権の被担保債権は、抗告人の本件差押債権と同一の債権なのであるから、このような場合には、たとえ、抗告人が抵当権実行の方法によらず、その被担保債権について作成された公正証書に基づく強制競売の方法が採られたときにおいても、差押債権と同一の債権である抵当権の被担保債権を、差押債権に優先する債権と解すべきではなく、(けだし、担保権の実行としての不動産競売手続において、一般的に、不動産の強制競売の規定が準用され《民執法一八八条》両者の手続的同一性が肯認され又、抵当権の被担保債権について、不動産に対する強制競売の申立てをし差押債権となつたからといつて債権の実体上の性質を変えるものではなく、配当により消滅すべき順位、範囲等において異なることはないのだから被担保債権が差押債権になつたときに、被担保債権をもつて競売手続上差押債権と、いわば異別ともいうべき優先する債権と解するのは、却つて競売手続の実行をせばめる結果となり、必ずしも妥当な結果を齎らさないおそれがあるからである。)、これを除外してその余の優先債権の有無及び弁済後の剰余を生ずる見込の有無を検討すべきものとするのが相当である。

したがつて、本件においては、抗告人の上記抵当権の被担保債権を除けば、差押債権に優先する債権は上記申立外滝豊の債権極度額二〇〇万円の根抵当権の被担保債権のみであるから、これに必要と見込まれる手続費用を加算しても、本件不動産の最低売却価額で弁済し剰余を生ずる見込みがあることは明らかであり、これを反対に解して剰余を生ずる見込みがないものとし、ひいては本件競売手続を取り消した原決定は違法であり、取消を免れない。

よつて、原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官伊藤豊治 裁判官石井彦壽)

別紙物件目録

(1)所在 新庄市大字萩野字水上

地番 三三四〇番八三

地目 宅地

地積 353.71平方メートル

(2)所在 同所

地番 三三四〇番一六三

地目 宅地

地積 413.00平方メートル

(3)所在 同所

地番 三三四〇番一六四

地目 宅地

地積 82.00平方メートル

(4)所在 同所三三四〇番地一六三

三三四〇番地一六四

家屋番号 三三四〇番一六三

種類 居宅

構造 木造カラー鉄板葺二階建

床面積 一階74.52平方メートル

二階28.98平方メートル

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